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ステロイドの安全な使い方-アトピー性皮膚炎において

膠原病など、今まで全く対処法がなかった病気にステロイドは革新的な効果を発揮します。
しかし、「ステロイドは怖い」という考え方が広まっていることも事実です。

アトピー性皮膚炎では、ステロイドの内服薬、外用薬を使うことがありますが、果たして、本当に安全なのでしょうか?
結論を言うと、「適切な方法で使用する限り、ステロイドは安全なお薬」です。

1.ステロイドとはどんなお薬?

強い抗炎症作用と、免疫抑制作用のあるお薬です。
我々の体内では副腎皮質刺激ホルモンというものが作られています。
副腎皮質刺激ホルモンは炎症反応を抑制し、体の免疫バランスを保つようにはたらいています。
けがをしたり火傷をしたりして細胞が傷つくと炎症が起きます。
この炎症を抑えるのが副腎皮質刺激ホルモンです。
また、免疫系は時に過剰になり、花粉やハウスダスト、安全な食物などに対してもそれを「危険な異物」として認識し、体に害を及ぼします。
副腎皮質刺激ホルモンはこの免疫の過剰反応を抑える働きも持っています。
その副腎皮質刺激ホルモンの構造を利用した薬がステロイドです。

ステロイドを適用する病気

非常に多くの病気に効果があります。
内科的疾患、小児科的疾患、皮膚科的疾患、外科系疾患、産婦人科疾患・・・列記するのはやめます。
あらゆる場面で効果を発揮します。
共通するのは「炎症を鎮める」「免疫を抑制する」とうい目的で使われることです。
炎症反応、免疫系の過剰、とくれば、まず挙げられるのが「膠原病」「アトピー性皮膚炎」です。

膠原病

膠原病とは1つの病気を指すのではなく、共通する性質の病気を総称する言葉です。
原因は免疫機能の異常にあります。
膠原病ではこの機能に異常が起こって自分の身体を異物として認識してしまい、それを排除しようとします。
これを「自己免疫反応」と言います。
関節の痛み・皮膚・筋肉の炎症・発熱・疲労感等々、様々な病態があります。
完治することはなく、以前はほとんどの場合死に至る病でした。
しかし、ステロイドが開発されてからこれが特効薬になり、やはり完治することはないものの、症状をうまくコントロールして、一生を全うできるようになりました。

病気に対し一生薬を使い続けることをどう認識するか?

 一生薬から離れられないのは怖い、ありえない、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
特にステロイドは長く使用を続けることになる場合が多い薬です。
でも、それがなければ膠原病の場合死に至るし、重症のアトピーに苦しみながら一生を終えるということになります。
生涯お薬を使い続ける、というのはなにか自然の摂理に反することなのでしょうか?
私はそう思いません。
人間、せいぜい100年もすればみな生涯を終えます。
40歳の時に膠原病を発症し、60歳まで20年間ステロイドを使うのがOKならば、100歳で自然死するまで使い続けるのも、まったくOKではないか、私はそう思います。
私の叔母は「皮膚筋炎」という膠原病を発症しました。
ステロイド剤と免疫抑制剤を、増量・減量を繰り返しながら死ぬまで服用し続けることになりました。
でもそれにより、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が劇的に向上しました。
入退院を繰り返しながらも、社長業とお琴の師範として存分に人生を過ごしています。
私はというと、広汎性発達障害と気分障害を持った精神障碍者であり、重度の不整脈・肝機能障害もあり、薬の服用が欠かせませんが、これも増量減量しながら、もしかするとある程度は一生飲み続けるかもしれません。でも本当に必要なら、必要な量を必要な期間必要な形態で使い続けてもいいじゃないかと思っています(もちろん、はじめは抵抗がありましたが・・・)。
まして、アトピー性皮膚炎では、第一選択は外用薬(塗り薬)であり、副作用や増減の難しさもきちんと医師の指導の下で使用している限り安心していいレベルです。

2.アトピー性皮膚炎に対するステロイド薬の適用

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、ジュクジュクした、あるいは乾燥した「耐え難いほどのかゆみ」を伴う炎症性皮膚疾患です。
アレルギー反応でもあり、免疫系の過剰反応でもあります。
環境の整備、スキンケア、外用薬(保湿剤・ステロイド薬・免疫抑制剤)で対処していきますが、重度の場合内服薬(抗ヒスタミン薬・ステロイド・免疫抑制薬)も用います。


外用薬(塗り薬)

 症状や年齢、そして使う部位によって、あるいは病状の変化に応じて、ステロイド薬は強さの大小で5段階にカテゴライズ(分類)されています。
 「Strongest(最も強い)」「Very Strong(とても強い)」「Strong(強い)」「Medium(中間)」「Week(弱い)」の5段階です。

大人の人差し指から第一関節まで5gチューブから軟膏を出すと、0.5gとなります。
これで大人の手のひら二枚分の皮膚に塗ることができます。
ローションの場合、一円玉程度の大きさがそれに相当します。
ステロイド外用薬は体の部位によって使い分けます。
通常は首より下にはストロング(中くらいの強さ)を用い、炎症がひどい場合にはベリィ・ストロング(やや強い)ものを使うことになります。
ストロンゲスト(最も強い)は、相当程度深刻性がある場合、期間を決めて使用します。
顔面・陰部ではステロイドの吸収率が高いため、ストロングより弱いミディアムを使います。
最も注意することは、「十分な(処方された)量」を「十分な期間」塗ることです。強い薬だからなんとなく少なめに・・・と使用量を控える患者さんが少なくありませんが、これは禁忌。
勝手な判断で量を変えたりやめてしまったりすることこそ、「ステロイドの危険性」を発揮させてしまうことになるのです。
実際に湿疹病変がよくなってもすぐにステロイドをやめてしまうと、ぶり返してしまいます。


内服薬

重度のアトピー性皮膚炎では、内服薬を用いることもあります。
抗ヒスタミン薬はかゆみを抑えるために使用されます。
繰り返しますが、アトピー性皮膚炎は「耐え難いほどの」とても強いかゆみを伴います。しかし、掻いてしまうと症状が悪化したり、細菌感染したりしますので、できるだけ掻かないようにこの薬が処方されることもあります。
ステロイドの内服薬もあります。
外用薬に比べ、全身に作用してしまいますから、副作用等も出やすいですが、強力な選択肢となります。
前述したように膠原病では一生ステロイドを内服しますが、膠原病の私の叔母は毎日元気に生活しています。免疫抑制剤の内服。漢方薬の内服、等も行うことがあります。


3.ステロイドの副作用

ステロイドは、湿疹やアトピーにおける炎症を十分に鎮静化するお薬で、有効性と安全性が確認されているお薬ですが、副作用が出ることもあります。

皮膚の菲薄化・毛細血管拡張

ステロイドは皮膚の細胞増殖も抑えてしまうため、強力なものを長期にわたり使い続けていると皮膚が薄くなり、欠陥が透けて見えるような状態になることがあります。
頬・胸・肘・指先などに現れる場合が多いので注意して経過を観察します。

感染症にかかりやすくなる

ステロイドは免疫を強力に抑制します。
そのため免疫系の過剰反応が大きな原因であるアトピー性皮膚炎に有効なわけですが、免疫を抑制するわけですから、当然感染症に罹りやすくなります。
患部からヘルペスウイルスや黄色ブドウ球菌などが侵入し、合併症を起こすことがあります。
免疫抑制剤を使用している場合はさらにその傾向が強くなります。
ほかにも副作用はあることはあるのですが、だいたいは上記の2つに気を付けていれば大丈夫です。
次は、ステロイドに対する誤解について記します。

4.ステロイド薬への誤解

ステロイド剤には依存性があり、やめられなくなるのでは。と思ったことはりませんか?
いきなり断薬する、医師の管理体制を無視して量を増減するなどした場合好ましくない状態になることはありますが基本的にはやめられなくなるほどの依存は現れないとされています。
それが「依存」「やめられない」などの誤解につながっているものと思われます。

抗うつ薬などに対しても同じことが言え、急な断薬をすれば思わぬトラブル(状態の悪化・幻視・幻聴など)をひきおこします。
精神障害を持っている私もそのような経験をしたことがあります。
薬には徐々に量を減らしていく必要がある属性を持ったものがあります。
しかし、医師の監督のもと、漸減していくならほとんどの場合問題は起こりません。

ステロイド外用薬を使っていると肌が黒くなる?

炎症が起こった場合、最初赤くなり、回復するにつれて黒ずんできます(色素沈着)。ステロイドを使ったから色素沈着が起こったのではなく、ステロイドによって炎症が収まったため色素沈着が起きたのです。逆にステロイド使用をためらって炎症を長引かせてしまうとさらに強い色素沈着が起こることもあると考えておいてください。

白内障や網膜剥離が起こる?

アトピー性皮膚炎で白内障・網膜剥離が起こることはあります。
白内障についてはいろいろな意見がありますが、白内障も、網膜剥離も、ステロイドを使ったからなるのではなく、アトピー性皮膚炎の病態として起こり得るものです。
網膜剥離は、顔・目のかゆみから、顔を叩いたり目をこすったりすることで起きるのではないかといわれています。

妊娠中・授乳中にステロイドを使用してはいけない?

外用薬として使用する場合は問題ありません。
内服で用いるときは妊娠4ヶ月くらいまではなるべく避けた方がよいとされています。

5.ステロイド薬のプロアクティブ療法

ステロイドを使用して、見かけ上症状が軽快したように見える場合でも、皮膚の中側では炎症がつづいています。
以前は見かけ上落ち着いたらすぐステロイドを中止するリアクティブ(Reactive)療法が中心でした。
症状が再燃(再発)したら再開するというものです。
現在では、湿疹がよくなっても、ステロイドをすぐ止めず、一日2回を1回に、次は1日おきに、それから週2回に・・・といったふうに数週間かけて漸減していく方法がとられることが多くなってきました。
これをプロアクティブ(Proactive)療法と言います。
これにより、再燃率とその程度を下げることができるようになりました。

最後に

以上みてきたように、ステロイドはその特性を知り、個々の体に合った形で医師の監督のもと使用するには決して危険なお薬ではありません。

「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」

とは孫氏の言葉ですが、敵(アトピー性皮膚炎)、己(体質や病状)を知り、そして強力で頼もしい味方・武器として「ステロイド」を上手に使っていこうではありませんか!